野田猫

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バッドエンド(桐立)

この神室町は何年ぶりなんだろう。

四代目だった桐生はもう一度この町を歩き始めた。

曇りのせいか、久しぶりの神室町は普段通り賑やかではなく、

薄暗く、口にできない哀愁が漂っているような雰囲気。

 

この町を心から拒んできた桐生は、

再びこの町の土地に足を踏んだ。

10年のムショ生活、また10年近くの奮闘生活を経て、

今落ち付いて暮らせる桐生は、

やっとあの人と過ごした、貴重な時間を、

あの短くて、切ない日々を、

じっくり味わうことができるようになった。

心が淀めば淀むほど、記憶の底に大事にしまっておいた、

あの懐かしく愛おしい姿が、

目の前に近づいてくる。

呼びかけられるように、「会いたい」という気持ちに駆使されて、

ここに戻ってしまった。

 

高層ビルの森、

虫のように走っている車、

蜂の群れと同然の人群れ、

長年の歳月により、

眉間の皴が一層深めた桐生は、

ただ静かにそれらの光景を目に収める。

 

両手をポケットにしながら、

回りの人混みと全く違う歩調で、町を徘徊していく。

気が付いたら、

昔の「空の一坪」まで足を運んでしまった。

ここも、だいぶ昔から立派な高層ビルになってると聞いたが、

実際に見たらその立派さを実感した桐生が、

思わずに目を細めた。

 

「ねぇ、あんた、ずっとここを見守ってるんだろうな。」

見上げる桐生が小声でつぶやいた。

佇んでいて、見慣れぬ建物を見上げた。

パタっ、パタ。一粒、二粒。

空から涙が降ってくる。

そう、あれは空の涙だ。俺のじゃねぇ。きっと。

顔、髪、そして服まで濡れても、桐生は動こうとする気にはなれなかった。

 

 

 

 

ここに選択肢が出る

→   離れる(bad end 1)

          ここに居続ける(bad end ? 2)

 

→ 離れるBad End 1

雨がますます激しくなってきた。

桐生は目を閉じて、

その場を離れ、隣にある小さなカフェーに入った。

適当に一杯のホットカフェーを注文して、うっかりして窓辺の席に腰をおろした。

マッグを手に取り、外の雨を無意識に見ている桐生の耳に、

店内が流れている音楽が入ってきた。

桐生の視界は、

どんどんカフェーのガラスのように、

雲って何も見えなくなる。

——

最期に君が微笑んで
真っすぐに差し出したものは
ただあまりに綺麗すぎて
こらえきれず涙溢れた

あの日きっとふたりは愛に触れた

私達は探し合って
時に自分を見失って
やがて見つけ合ったのなら
どんな結末が待っていても
運命と呼ぶ以外他にはない

君が旅立ったあの空に
優しく私を照らす星が光った

側にいて、愛する人

時を超えて形を変えて
ふたりまだ見ぬ未来がここに
ねえこんなにも残ってるから

信じて、愛する人

私の中で君は生きる
だからこれから先もずっと
サヨナラなんて言わない

あの日きっとふたりは愛に触れた

——BY 「Heaven」 浜崎あゆみ 2006

 

→ ここに居続ける(bad end ? 2)

突然、後ろからビルの中へと走ってきた誰かにぶつかられ、力抜いた桐生は地面に転んでしまった。

立ち上げる気すらない桐生は、ただ呆然に地面を見つめている。

立華の柔らかな微笑み、薄紅な唇、落ち付いた声、温度の低めた肌、白皙で整った顔、決別の時の目つき、最後の最後に自分に対する未練がましい瞳、走馬灯のように桐生の脳内で回っている。

忘却しかけるはずだったのに、相変わらず鮮明だった。

ほころばせる顔も、顰める顔も、綺麗で、愛おしくて。

けど、どんなに手を伸ばしても、届かない。

またあの時の俺に戻っちまったなのか、と、桐生の全身に膨大な無力感が襲い掛かってきた。

雨は容赦なく彼の体に激しく打っている。

苦い味が彼の口に広げる。

手が無意識にこぶしとなり、桐生は深い悔しさをかみつけながら、無声であの名前を何度も口にした。

 

その時、上から、穏やかで優しい声がかけられた。

「大丈夫ですか?風邪をひきますよ。」

水面にシルエットが映っている。

視線を上げれば、

いつの間にか、黒い傘をさす一人の青年が、目の前に立っている。

そして、肌白い片手を伸ばしてきた。

 

曇っている桐生の目に映った、エレガントなスーツ姿。

その微笑んだ黒い瞳のやさしさ、とても懐かしく思えた。

 

まるでタイムスリップのような一幕。

 

どう生まれ変わっても、

出逢う運命であると、

信じ始めた。

——

All of little something, these are our memories

You make me cry

Make me smile

Make me feel that love is true

You always stand by my side

I don't want to say goodbye

Thank you for all the love you always give to me

——By 「Little Love」 2008


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